2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

ちばっとプロジェクト「ちば生きもの科学クラブ 2015」を核とする博物館連携企画 - 初年度 報告 -

研究責任者

針谷 亜希子

所属:千葉市科学館 教育普及グループ 企画戦略チーム 教諭

概要

1.はじめに
 千葉市科学館では地域の博物館のもつ独自の資源(モノ・ノウハウ・人材・空間)を結びつけ、テーマに沿って利用する連続講座「ちば生きもの科学クラブ(以下、クラブという)」を実施している。このクラブは小学4年生から参加でき、幅広い年齢層の参加者と様々な分野の専門家、そして多様なバックグラウンドを持つ市民ボランティアがともに活動することで、学校教育とはまた異なった学びの場を提供しているが、そこには共通の目標がある。
 中央教育審議会によると21世紀は「知識基盤社会」の時代であるされている(「わが国の高等教育の将来像(答申)、平成17年」)。
また平成20年に改定された学習指導要領においては、知識基盤社会を背景とした「生きる力」の育成を理念とし、「課題を見いだし解決する力」、「知識・技能の更新のための生涯にわたる学習」、「他者や社会、自然や環境と共に生きること」など、変化に対応するための能力を育むこと目指している。その中には理数教育の一層の充実や体験活動の充実などが明記されている。また具体策として「博物館」の活用が示されている。
 一方で、現状では学校教育のカリキュラムの中で、多くの生徒が複数の博物館を利用することは容易ではない。しかしテーマに沿って体系化された博物館横断型のプログラムが地域にあれば、学びの選択肢を多様化できるだけでなく、将来的にはそれらのプログラムをもとに一部を学校教育の中で活用したり、プログラムの一部に学校が参画することで児童・生徒の新たな活躍の場が生み出すことにつながると考えられる。

 今回は公益財団法人中谷医工計測技術振興財団「科学教育振興【プログラム】助成」を受けて、既存のクラブ活動に市内の工業高等学校との連携を加えた一連の取り組みを実施したので、これを報告する。


2.ちば生きもの科学クラブについて
 本クラブは千葉市科学館・千葉県立中央博物館・千葉市動物公園の連携企画で、平成27年度で4回目をむかえる。テーマに沿って地域の博物館や生涯学習施設を利用し、様々な体験を通して自然や生きものを科学的に観て楽しむ姿勢を養うことを目指している。今年度は5月から11月まで全8回の講座を行い、クラブ生は小学4年生:8名、5年生:4名、6年生:1名、中学生:2名、大学生:1名、成人:4名、で合わせて20名で活動した。このなかには親子での参加やリピーターが含まれている。全8回のスケジュール・活動内容は下記の通り。

ちば生きもの科学クラブ 2015
~空を飛ぶ哺乳類『コウモリ』のひみつ~
1回目:5月10日(日)動物公園オリエンテーション
2回目:5月24日(日)科学館コウモリのふしぎ―超音波
~ヒトには聞こえない音の秘密~
3回目:6月13日(土)動物公園コウモリを観察しよう①
~食事と体のつくり~
4回目:6月28日(日)図書館
調べ方・まとめ方・伝え方を学ぼう
~図書館を活用しよう~
5回目:8月5日(日)科学館
バットディテクターを作ろう
~電子工作に挑戦!~
6回目:9月13日(日)博物館コウモリを観察しよう②
~コウモリの声を聞こう~
7回目:10月24日(土)科学館コウモリと私たち
~コウモリとの付き合い方~
8回目:11月22日(日)科学館発表会


3.工業高等学校との連携
 本クラブは博物館を始め図書館やNPO法人など様々な機関と連携してきたが、この度は高校との連携を行うことによってプログラムを作ることを目標とした。今回は「コウモリ」をテーマに様々な活動をしたが、核となったのがコウモリの声(超音波)を聞く装置バットディテクーを自ら作り、それを用いて野生のアブラコウモリを観察するという一連の活動である。バットディテクターはいろいろなタイプが市販されているが、クラブでは手作りにこだわり、同じ市内にある千葉県立千葉工業高等学校の情報技術科の教諭と生徒の協力により、高校で行っているプロジェクト研究で設計したバットディテクターを作るよう計画を立てた。
 実施にあたって前年度から高校と打合せを行った。6月に試作デモ機使って実際の観察環境でテストを行い、その結果をフィードバックして改良を重ね、写真のようなイヤホン付きのヘテロダイン方式バットディテクターが完成した。クラブ当日には高校生も指導者として参加した。クラブ生と指導者のバランスから、希望者の一部が参加することとなったが、電子工作がはじめてのクラブ生も高校生のきめ細かい指導のおかげで全員が無事にマイ・バットディテクターを完成させ、コウモリ観察に臨むことができた。
 クラブ活動の中でもっともクラブ生が楽しみにしていたのがこの講座で、超音波を聞くことができる機械を自分で作った達成感はとても大きい様子だった。また工業高校としては普段の学校活動を紹介し、ものづくりの楽しさを実感してもらえる良い機会となった。今回のような連携で高校側にもメリットがあることが確認できた。


4.発表会と巡回展示
 このクラブでは参加者は講座に参加するだけではなく、各自が課題を決めて調べてまとめ、一般に向けて発表をする。発表作品(課題研究のまとめ)はその後関係施設に巡回展示され、多くの人の目に触れることとなる。巡回展示を前提とした作品作りは、クラブ生にとって緊張感を伴う学びの機会であると同時に、博物館側からすると地域の博物館資源を横断的に組み合わせたより多角的なプログラム(学びのモデル)の成果が、参加者自身によって発信されることになる。次にクラブの集大成である発表会・巡回展示について述べる。
 発表会では全員が行うポスター発表と希望者が行う口頭発表がある。最終回には16人が参加し、小学生から大人まで11名が口頭発表を行った。また、今回は高校生によるバットディテクターを用いたコウモリ観測の研究についての招待発表を行った。
 その後先生と話したところ、小学生に研究について話すという機会はなかなかないので、苦労しながらもいい経験になりました、とのコメントをいただいた。一方でクラブ生、特に小学生たちは自分たちと同じコウモリの研究を高校生が行っているのに興味を持ち、内容を懸命に理解しようとしていた。このような科学に関して多世代とのコミュニケーションが生まれ、相互に刺激を受け合うことができるのもこのクラブの特筆すべき点である。
 発表会のあとは、会場を変えて作品の巡回展示を行った。自由見学できるエリアに展示していたため多くの方に作品を見てもらった。見学者数は千葉市科学館:26,569名(2015年11月23日~12月27日)、千葉県立中央博物:2,425名(1月9日~31日)、千葉市動物公園:31,944名(2月2日~29日)であった。
 また今回は作品を見た後の来館者の反応をアンケートで把握したので、その一部を紹介する。
・友達のがあってびっくりした(小4)
・見ているだけでわくわくして自分も作ってみたいと思った(小5)
・じっくり見られてよかったです。改めて作品を見ると見直すところがあります。(小5※クラブ生)
・よくまとめられていて分かりやすかった。コウモリの事を知ることができた。(多数)
 全体的に目立ったのは「小学生なのにすごい」という感想であった。これは同じ小学生からだけでなく、高校生、大人世代からも複数のコメントが寄せられていた。このような巡回展示をきっかけに、博物館での学び・活動に興味を持ってもらいたい。


5.クラブ以外のプロジェクト活動
 今回は助成をいただいたことでクラブ以外の活動も多数行うことができた。下記に主な活動の概要を述べる。

●高校生無料開放日でのイベント実施
「空を飛ぶ哺乳類『コウモリ』のひみつ」
日時:12月19日(土)13:00~14:30
場所:千葉市科学館
対象:一般

 千葉市科学館では年に2回高校生無料開放日を設けている。今年度はクラブ7回目でも講師を務めていただいた大沢ご夫妻に一般向けに話をしていただき、高校生を含め26名の参加があった。

●千葉市立稲丘小学校 理科クラブとの連携
「身近な野生動物 コウモリの秘密を探ろう」
日時:11月9日(火)14:50~15:50
場所:千葉市立稲丘小学校 理科室
対象:理科クラブ在籍の4~6年生まで33名

 アンケートによると、今日の活動に参加して自然や科学に興味を持ったか?という質問に対して、31名の児童が「さらに興味を持った」、「少し興味を持った」と答えている。ここでも超音波をバットディテクターで聞く実験が印象に強く残ったことが分かった。

●サイエンスアゴラ 2015へのブース出展
ちばっとプロジェクト
「身近なコウモリのひみつを探れ」
日時:11月14日(土)・15日(日)
9:00~17:00
場所:日本科学未来館対象:一般

 サイエンスアゴラは全国規模の科学の祭典で、研究所・大学・企業・NPO法人・博物館など、多様な団体が科学に関するイベントを提供する。ここではクラブの活動報告とともにクラブ生の有志によるミニワークショップ・ポスター発表を行った。
 アンケートによると参加したクラブ生・保護者は、みな科学に対してさらに興味を持ったと回答している。特に「お客さんに説明するのが楽しかった」など、自分が行ったことを他者に話すこと、逆に他者から聞くことが楽しさ・達成感・自信につながっていた。またサイエンスアゴラの幅広い出展内容に触れたことも科学への興味関心の高まりや有用性の理解につながっていることがうかがえた。


6.まとめ
 本プロジェクトは高校と連携して作ったプログラムをクラブを実施し、他にも一般向けのイベントや出張プログラムの実施、成果報告など多岐にわたる活動を行った。それらの活動で分かったことは、年齢に限らず自身の興味を起点とした活動や他者との交流は、参加者のやりがいや達成感、科学や自然に関する興味や理解の増進につながるということだ。また、より年少の子どもに指導する経験は、高校生にとっても有意義なものであった。
 学校行事の忙しさなどの関係でクラブやイベントへの中高生の参加は少なくなりがちであるが、教科学習が進んだ中高生だからこそ内容を深められる活動でもあるので、次年度は様々な形での一層の参加を呼びかけ、学校との連携強化に努めたい。