2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

こども科学教室「こどもおもしろサイエンス」開催による地域貢献

実施担当者

春日 貴江

所属:山口県立下関中央工業高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 5年前より、工業と社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育むとともに、工業教育の還元と地域の交流を図ることを目的として、生徒が講師を務める小学生向けの科学教室を計画、実施している。
 活動全体を通して、生徒自身はPDCAサイクルを経験し、主体的に考え行動する態度を身に付ける。また、受講した小学生は、科学実験を体験し、より科学を身近に感じ、興味を持つことができると考える。活動の中心は、サイエンス同好会の生徒が行っている。


2.こども科学教室開催までの流れ
 教室開催までは、次のような流れで行う。
①同好会のメンバーが、小学生に科学の楽しさが伝わる内容を考える。
②実験や工作の内容について学習し、知識を深めた後、実際に予備実験を行う。
③予備実験終了後に、実験の成功率や楽しさ、小学生の取組内容と難易度、安全性を考慮し、実施の可否を決定する。
④科学教室開催は各回ともボランティアを募り、同好会メンバーだけでなく、化学工業科の2・3年生及びJRC部員の協力を得て行うため、実施可能と決定した内容については、同好会メンバーが他の生徒に内容をレクチャーする。
⑤①~④のような準備を行った後、同好会及びボランティア生徒が講師となって、小学生に科学を教える。


3.こども科学教室の実施内容
 こども科学教室は、校内だけでなく、地域の商業施設や地域のイベントでも行った。
 参加者は、地域のフリーペーパーへの掲載やFMラジオにより募集した(図1)。当日は、小学生用の実験手引きを説明資料として配布した(図2)。
 こども科学教室の内容は、予備実験の検証結果、参加人数や場所、時間などを考慮し決定した。実際に行ったものを、下の表に挙げる。

実施月日(曜) 内容
5月3日(日) 太陽で動く風車の製作
7月25日(土) ミニ綿菓子機の製作
7月31日(金) ミニ綿菓子機の製作 線香花火の製作
8月2日(日) ミニ綿菓子機の製作
9月12日(土) 光で色が変わるスライムの製作
9月13日(日) 光で色が変わるスライムの製作
10月4日(日) 光で色が変わるスライムの製作
11月8日(日) 星形結晶発生実験
11月21日(土) 水のみ鳥の工作 ヘリウムバルーンアート
3月12日(土) 3Dプリンターで立体物の製作 キャンドルの製作
3月13日(日) 3Dプリンターで立体物の製作 キャンドルの製作
今年度は11日開催し、延べ1000名を超える方に参加していただいた。


4.参加者アンケート
(1)生徒
 化学工業科3年生の意識の変化を調査するため、アンケートを実施した。科学教室の講師として活動する前の4月と、講師として数回参加した翌年1月に同じ内容で行った。それぞれの質問に対する平均値の変化を次に示す。

(注:図/PDFに記載)

 ほとんどの項目において、4月当初に比べ、自信がついていることがわかる。最も評価が高くなった項目は、「報告」、次いで「体力」であり、「忍耐力」「協調性」「作業内容の記録」などが他の項目より高い伸びを示している。
 一方、評価が下がったものは、「清潔」である。これは、単に能力が落ちたということでなく、様々な体験を通して、自分自身の認識の甘さや至らなさに気付いたためであると考えることができる。

(2)小学生
 各種イベントでは、参加者が多くアンケートは実施できなかったが、学校内で行った際に感想を聞くことができた。
 「ろうそくを初めて作って楽しかったです。またやってみたいです。」「友達から誘われてきたけど楽しかったです。次が楽しみなのでまた来ます。」「ロボットをつくる講座をやってみたいです。」「家でも作ってみたいなと思いました。」「3Dプリンターの仕組みがわかりました。」

(3)保護者
 小学生同様、保護者の方の意見も伺った。
 「これからもいろいろな講座を受けたいので、どんどん実施してください。」「普段、子供達に見せてあげられないものや実験で興味を持たせて頂いて感謝しています。」「また機会があれば是非参加したいです。」「いつも興味深く、楽しい講座をありがとうございます。家にあるもの、手に入りやすいものでしていただけるので、『家でも』という気持ちになり、子どもも楽しく受けることができました。」
 一度参加いただいた御家族は、その後も何度となく足を運んでくださることが、この講座への評価であると考える。


5.まとめ
 生徒は、こども科学教室を開催するために、成功率や楽しさ、小学生の取組内容と安全を考慮し、予備実験を繰り返した。この経験を通して、科学への理解が深まり、主体的かつ多面的に考えることができるようになった。実際の教室では、実施回数を重ねるごとに、個々のプレゼンテーション能力が向上した。
 また小学生やその保護者から感謝され、認められることで、達成感を得たこと、さらにそれが自信につながったことは、とても大きな収穫であった。
 前述の生徒のアンケートは、化学工業科全員に対して等しく行っており、サイエンス同好会のメンバーだけに限ったものではない。企画したメンバーや、こども科学教室の開催により数多く関わった生徒では、受け止め方も結果も異なったものになったと考えられる。しかし、多少の差はあるにせよ、多く生徒に対して効果があったと考える。地域の方々と触れ合い、学校生活で得ることのできない実践的な知識・技術を習得することができた。
 生徒の得意分野を生かした「こども科学教室」開催を通して、参加した小学生や保護者の方々が、少しでも科学に感動し、科学に興味をもっていただくことができたとすれば、それも最大の成果であったと言える。
今後も、この活動が地域社会に工業教育内容を理解していただくきっかけとなり、生徒の学習活動を通した地域交流ができることに期待し、継続していきたい。