2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

『理科特別講座』抗原抗体反応のしくみ~だ液を用いて血液型を調べよう~

実施担当者

塗田 永美

所属:仙台市立仙台青陵中等教育学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校は宮城県の仙台市立管轄の中高一貫教育校で,開校7年目を迎えた。開校当初から「理科特別講座」と称し,授業ではできない理科の企画を夏季休暇の日程を利用して行っている。本校の特色を生かすため,参加者は異年齢集団(中学生と高校生)として希望者を募っている。
 新課程に入り,免疫分野が「生物基礎」及び「生物」に大きく取り上げられてきた。現状では,免疫に関する実験を授業で展開することができていない。また,実験書などにおいても免疫を題材とした実験が多くはない。以前より,抗原抗体反応を利用した「だ液検査キット」を活用して実験・考察を行い,思考学習重視の企画をしたいと考えていた。しかし,本県生物部会の教員研修会でも紹介した「だ液検査キット」は10回分定価16,000円と本校にとって高価な実験キットのため,実現できずにいた。今回,中谷医工計測技術振興財団の科学技術振興助成を受け,実施可能となった。
 そこで,今年の夏季休暇の2日間を利用して行われた本校「理科特別講座」の報告及び成果をご紹介したい。


2.企画全体の概要
 本企画にあたり,1~5年生(中学1年~高校2年生)を対象に希望生徒で行った。高校生物の免疫分野の知識も必要であったため,事前学習として土曜日の3時間を2回利用し,本校生物教員による事前学習にあてた。事前学習も含め4日間の講座になり,延べ人数から145名の生徒が参加した(表1)。

(注:表/PDFに記載)

 免疫分野ということで,東北大学大学院医学系 研究科免疫学分野教授石井直人先生の講演を企画した。さらに,宮城教育大学中等教育教員養成 課程理科教育専攻2年生10名の学生の方々に講師及びアシスタントを担当していただいた。その際,宮城教育大学教育学部准教授小林恭士先生にご指導及び助言者として講評をいただいた。また,本県の生物部会研修会で今回使用したキットを紹介してくださった柴田農林高等学校川崎校の東舘拓也教諭に,全体のご指導をいただいた。


3.実験講座について
(1)1日目(8月4日)
①第1部
 本校では,マイクロピペッターの使い方を5年生(高校2年生)の生物授業で行う。ほとんどの生徒がしっかり使い方を身につけていないため,今回実験の際に頻繁に利用するマイクロピペッターの使い方と希釈の概念の確認の講義を宮城教育大学学生2人に担当していただいた。希釈の概念では,“カルピスジュース”で説明するなど分かりやすい説明であった。実際の操作もアシスタントの学生の方々がグループごとに補助に入りスムーズに行われた(写真a)。

②第2部
 その後「免疫のふしぎ」と題して講師石井直人先生の講義となった(写真b)。自分の体で行われている免疫反応から病気のお話,アニメ“ブラックジャック”を取り上げての皮膚移植や臓器移植など,クイズ形式も入れての分かりやすい講義となった。貴重な講義ということで6年生(高校3年生)の飛び入り受講もあった。理科教育を専攻する大学生の皆さんも参加して総勢45名の聴講となった。

(2)2日目(8月5日)
①第1部
 キットを使用して8班編成で実験を行った。
その間,反応時間30分の待ち時間があり,その時間に原理説明を行った。宮城教育大学学生2人が講師を務めた。前日の操作指導もあり時間通りに進められた(写真c)。
実験は,8班編成で行われた。生徒たちから事前に提案されただ液以外の試料で実験を行う班を1つ作った。反応結果を指定用紙にまとめ,2班1グループとして結果のまとめと集約,分析のための話し合いを行った。その際,アシスタントの方々の助言が大変有効であった。

②第2部
 第1部でまとめた結果をもとに,発表の準備30分,発表1グループ7~8分で5グループの発表を大学生の方の司会のもと行った。前年度の理科特別講座で,「KJ法」を利用してのまとめ発表を学習していたので,今回もその手法を利用した。付箋紙使用で個々人の意見を出し合い,集約して色紙を使っての視覚で分かりやすい発表になるように工夫した(写真d)。質疑応答も活発になる場面があり,時間でベルを鳴らしながらの工夫が有効となった。良い意味で白熱した討論も登場し,ベル担当者がベルを鳴らすタイミングに苦慮しながらの進行となった。


4.まとめ~成果と意義~
今回の企画の成果と意義を以下にまとめた。

【知識及び技能の定着の観点】
・マイクロピペッターの使用方法と希釈の概念。
・免疫の基本知識および免疫反応の概要と抗原抗体反応のしくみの理解。
・血液型のしくみ,また教科書にはないH抗原について理解。
【データ整理のまとめ】
・ネガティブコントロールの役割。
・予想に反した結果の意義と重要性。
・データ数の必要性。
・考察をする際の論理的思考の向上。
・実験データをさらに確認する追実験の手法の組み立て。
・プレゼンテーションの実践。
・人と情報を共有する重要性。
【全体】
・異年齢集団で取り組むことの意義。
・アシスタントの活用で得られた深い論理的思考の高上。時間の有効利用。

 全体の成果と意義の補足として,本校の特徴となる異年齢集団の効果は今回のようにアシスタントをグループに1人配置することで顕著にみられた。高学年が低学年と大学生のアシスタントの間に入り,社会で言う“中間管理職”のような役割になり,情報共有の点や高度な知識理解の点で低学年も理解できるものになった。また,その役割を果たした生徒は人に教えることでさらに確かな知識が身につく。
 データ分析において,想定外の結果の分析を論理的に考えることができ,考察に深みが増した。
 発表の場でも,人に分かりやすく伝えるというプレゼンテーションの力がつき,聞く側もそれに対して傾聴したり疑問を投げかけたりと反論できる力もついた。
 このような実験を通しての討議・発表がアクティブ・ラーニングの1つになり,これを積み重ねることで,科学実験の解決や,他分野の問題解決にもつながる学習効果が得られた。
 今後もこのような日常の授業ではできない「理科特別講座」を続けていきたい。それは,生徒たちにとっても貴重な経験であり,進路意識の向上にもつながる。また,教員にとっても第一線で活躍する方々と触れ,スキルアップの向上につながり,質の高い授業の提供にもつながると確信している。