2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

『チーム アライグマ』における埼玉県内アライグマ生息実態調査ならびに高校生によるシンポジウム開催・県内の他の外来生物(無脊椎動物)についての研修ならびに調査

実施担当者

矢野 光子

所属:埼玉県立川越女子高等学校 教諭

概要

1.はじめに
 北米原産のアライグマは、特定外来生物に指定され、現在日本において急速にその分布を広げている。1962年愛知県で初めて野生化が確認されて以降、1970年代アニメーションの影響でブームとなりペットとして国内に輸入され、国内飼育頭数が激増した。しかし、各地で無責任な放逐により自然繁殖するようになった。1998年までに北海道から和歌山県まで7都道府県で野生化し、2001年自然繁殖は北海道、東京都、千葉、埼玉、神奈川、石川、岐阜、愛知、和歌山県、京都府で確認され、生息は36都道府県、2002年に39都道府県、2003年は41都道府県に及んだ。2006年ですべての都道府県での野生化が報告された。日本にはアライグマの天敵がいないうえ、雑食性で繁殖力も旺盛である。どんどん増えたアライグマは、サギ類のコロニーの破壊、ツバメ、フクロウの巣への加害、サンショウウオの捕食を通して生態系に影響を与え、全国で約2憶8千万円の農業被害(2001年農水省統計)、屋根裏に住みついて糞尿による住居被害、寺社など文化財破損が報告されている。また、アライグマが媒介する人畜共通感染症の脅威も心配される。


2.チームアライグマ発足と1年目の活動成果
~「おもしろそうだからやってみようかな」から「研究の質をあげたい」へ~
 埼玉県高等学校生物研究会動植物調査委員会主催の平成25年自主研修会「特定外来生物アライグマの野外調査法と丘陵地の天然記念物ヤマネ」が発端となり、平成26年4月埼玉県を中心に埼玉10校+東京1校の生徒が外来生物問題を考えることを目的に集まり、複数の学校が協力して、埼玉県全域のアライグマ生息調査を爪痕調査によってあきらかにしようと活動を開始し、「チームアライグマ」を結成した。4月に爪痕調査の研修会、7月に中間発表会、10月にアライグマについて見識を広めるための研修+活動についての協議、3月に400を超える爪痕のデータをまとめ、中央大学「アライグマセミナー2015」での事例発表、日本生態学会鹿児島大会での高校生ポスター発表で活動1年目を終了した。
寺社の爪痕調査によって、アライグマの広がりを実感することができたし、市町村における捕獲データと比較することで、アライグマの生息状況を知る上で爪痕調査は、ある程度有効であることがわかった。ただし、ハクビシンとの区別がつきにくいこと、足跡や映像としての証拠も必要であること、調査地点数がまだ少ない点などが課題としてあげられた。おもしろそうだと集まったメンバーが、自分たちの活動の意味や目的を考え、調査し、考察し、外部へ考えたことを発表することで、やっと当事者意識が持てるようになった。

3.2年目の活動成果(本年助成1年目)
 高校生が外来生物問題を自分たちの目線と立場で自主的に考えることに加え、2年目はチームでの学びから社会に様々な発信をし、科学的思考力・判断力・表現力に加え、実社会との関わりの中で答えのない問題を協働して解決する力を育成することを目的とした。チーム結成2年目より中谷財団の助成を得ることができ、活動がより活性化した。2年目の目標は、自分たちの活動を外部に発表することで、チームとして外来生物問題を広く一般の人々に啓蒙することである。
○平成27年4月29日(水)10:00~16:00
日本生態学会(鹿児島)参加報告、爪痕調査研修、自然散策場所:飯能周辺の神社、天覧山 参加者:生徒39名、教員11名
○平成26年5月~8月 第2期アライグマ爪痕調査9月のシンポジウムをめざしスカイプ会議を週1回実施し、ポスター制作、テーマ決め、仕事分担等を話し合った。
○平成27年7月18日(土)9:30~16:00
外来種カワリヌマエビ属研修(講師:埼玉環境科学国際センター金澤先生)場所:川越女子高校、新河岸川
参加者:生徒7名、
教員3名
○平成27年8月5日(水)13:00~15:30
三浦教授との打合せ、会場下見、シンポジウム進行打合せ等
場所:早稲田大学所沢キャンパス 参加高校 8校、生徒・教員多数参加
○平成27年9月22日(火)9:30~17:00
高校生による外来生物問題を考えるシンポジウム「アライグマを通して考える外来生物問題」

講演「シカとアライグマから生物の多様性を考える」(講師:早稲田大学三浦教授)
アライグマに関する研究を10校が口頭・ポスターで発表。
朝日新聞、読売新聞、日本農業新聞の取材もあり、自分たちの活動が注目されていることに気がついた。閉会式後チームで反省会。
場所:早稲田大学所沢キャンパス101号館
参加校10校、総来場者91名
主催:チームアライグマ
共催:埼玉県高等学校生物研究会
協力:日本獣医生命科学大学、早稲田大学、関西野生生物研究所
<研究テーマ>
・蕨高校 アライグマの食性~頭骨を通して考える
・熊谷西高校 アライグマが夜行性なのは人が原因?~周囲の人口から探る糸との関係~
・越谷北高校 あラいぐまのスみカを探ル
・川越女子高校 川越市内におけるアライグマの分布調査
・越ヶ谷高校 埼玉県東部へのアライグマの広がり
・坂戸西高校 アライグマに対する意識調査
・飯能高校 痕跡調査からみる飯能市内におけるアライグマの生息状況
・所沢西高校 所沢西高校周辺でのアライグマ爪痕調査と聞き込み調査
・所沢高校 アライグマの生息状況と駆除~所沢周辺調査より
・海城中・高等学校 アライグマ対策に関する提言
○平成27年11月15日(日)9:30~17:00
外来種セアカゴケグモ・トガリアメンボ研修
(講師:NPO埼玉生物絶滅危惧動物種調査団代表理事碓井先生)今後の活動についての話合い
場所:越谷北高校
参加者:生徒18名、教員5名
○平成27年12月20日(日)11:00~16:30
2月討論会の打合せ 11:00~13:30
都生研「野生生物と人との関係を考える」講演会(講師:東京都猟友会小川岳人先生)
場所:都立国立高校
参加者:生徒15名、教員4名
○平成28年1月 生態学会代表3校発表打合せ
○平成28年2月7日(日)10:00~14:30
「外来生物問題から考える自然の未来~自然との共生に向けた討論会~」生徒達が企画・運営する討論会
場所:日本獣医生命科学大学 E棟 E111講義室 参加校7校、総来場者42名
主催:チームアライグマ、埼玉県高等学校生物研究会
共催:日本獣医生命科学大学野生動物教育研究機構、関西野生生物研究所
○平成28年2月14日(日)13:30~16:30
NPO法人いろいろ生きものネット埼玉主催
「外来生物アライグマの実態に迫る」チーム代表活動報告、各校活動をポスターで紹介
○平成28年3月21日(月)9:00~16:00
日本生態学会仙台大会高校生ポスター発表
場所:仙台国際センター
参加校7校 昨年代表校3校であったが本年は代表校3校に加え4校が単独でポスター発表を行った。坂戸西高校は優秀賞、越ヶ谷高校は審査員特別賞を受賞した。


4.課題と今後の活動
~各校それぞれの外来生物研究とアライグマを通しての外来生物問題啓蒙活動等でのつながり~
 活動の中心が生物部、科学部であり、チーム結成当初の生徒はすでに引退し、次の世代が活躍している。部員数の減少、先輩任せであった活動に対しての意識の違いなど、チームの活動を引き継ぐ難しさが問題となっている。しかし、2月14日の活動時、チームの次のリーダーを各校の1年生が集まり決めた。立候補があり、承認の形で決まったことに安心した。意欲を持って活動にあたる生徒が、その思いを伝えていく、良い雰囲気ができている。
 今後、各学校が外来生物についてそれぞれのテーマで研究していき、チームとして外来生物問題について高校生の目線と立場で考え、高校生が自主的に活動していく基本方針は変わらない。アライグマという生物は外来生物問題を広く一般の人達に訴え、考えてもらう上では大変わかりやすい生物である。人がペットのアライグマをリリースしたことで分布拡大し、農業被害や家屋被害については多くの人達に見える形で報道され、身近に感じることができるからだ。アライグマを通して、外来生物問題について多くの人達に考えるきっかけを与えていきたいと考えている。生徒達は今後どう活動を進めていくのか、話し合う中でどのようにまとまっていくのかが楽しみである。
このポスターは、平成28年2月にチームのある1校が地域の啓蒙活動の1つとして作成し、近隣に配布したアライグマのポスターである。このような活動を様々な形で、各校で実施していくことが今後期待される。


5.まとめ
 チームアライグマの爪痕調査データは、環境省生物多様性センターのデータとして活用されることになった。自分たちで集めたデータが活用されることに、生徒たちはやりがいを感じている。チームアライグマのように、複数の学校の多くの中・高校生が参加した県内調査は極めて稀である。この活動を通して、調査結果をもとに、参加した生徒が学び合いによって科学的思考力、判断力、表現力を育て、社会との関わりの中で答えのない問題を協働して解決する力をも育成できたと感じている。