2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

『チームアライグマ』における埼玉県内アライグマ生息実態調査ならびに高校生によるシンポウム開催・県内の他の外来生物(無脊椎動物)についての研修ならびに調査

実施担当者

矢野 光子

所属:埼玉県立川越女子高等学校 教諭

概要

1.はじめに

北米原産のアライグマは、2006年にはすべての都道府県で野生化が報告され、現在特定外来生物に指定されている。日本にはアライグマの天敵がいないうえ、雑食性で繁殖力も旺盛である。どんどん増えたアライグマは、生態系へ影響を与え、農業・住居・寺社などの文化財へ被害をあたえている。そのような状況の中、平成26年4月埼至県を中心に埼玉10校+東京1校が、埼玉県全域のアライグマの生息を爪痕調査によってあきらかにすることを目標に、「チームアライグマ」を結成した。この活動により、外来生物の分布拡大の実態把握など研究成果が得られた。平成27年度より、高校生が外来生物問題を自分たちの目線と立場で自主的に考えることに加え、チームでの学びから社会に様々な発信をすることで、科学的思考カ・判断カ・表現力に加え、実社会との閲わりの中で答えのない問題を協働して解決する力を育成することを目的として活動を開始。
チーム結成2年目より中谷財団の助成を得ることができ、活動がより活性化した。平成28年度には自分たちの活動を外部に発表することで、チームとして外来生物間題を広く一般の人々に啓蒙することをめざした。

2.チーム構成

・代表:埼玉県立総合教育センター指導主事兼主任専門員杉田氏事務局:川越女子高校
海城中学高等学校生物部、川越女子高校生物部、熊谷西高校理数科、越ヶ谷高校科学部、越谷北高
校生物部、坂戸西高校生物部、所沢高校生物部、所沢西高校生物部、飯能高校環境科学部、蕨高校
生物部計10校

3.活動内容

3-1春の研修会

爪痕調査研修、自然散策や外来生物観察、今年度の活動計画。
新入学生対象にした爪痕調査方法を伝え、新チームリーダーの下、本年度活動方針、活動内容の確認を行った。フィールドに出て、今後の活動の基盤となる知識を深め、人間関係を円滑にするために各校の親睦を深めた。
平成27年度:飯能市天覧山・寺社平成28年度:都市近郊(蕨)の自然と歴史

3-2研修会&打ち合わせ

月1回は話し合いの機会と幡広い知識を得て、自己能力の向上をめざした集まり(研修会)を設けるように努めた。学会で発表する合同ポスターの作成・検討する少ない機会を兼ねている。
平成27年度:外来種カワリヌマエビ属・セアカゴケグモ・トガリアメンボ研修、野生生物とヒトとの関係の講演会平成28年度:越谷北高校周辺の外来生物研修

3-3高校生による外来生物を考えるシンポウム

9月早稲田大学所沢キャンパス11号館で、講演会とポスター発表を行った。
外来生物に関する課題研究を行うことで、科学的思考カ・判断カ・表現力に加え、実社会との関わりの中で答えのない問題を協働して解決する力を育成することができた。

〇平成27年度:「アライグマを通して考える外来生物間題」

<講演>「シカとアライグマから生物の多様性を考える」早稲田大学三浦教授
く研究テーマ>
・ 蕨高校アライグマの食性~頭骨を通して考える
・ 熊谷西高校アライグマが夜行性なのは人が原因?~周囲の人口から探る糸との関係~
・ 越谷北高校アライグマのすみかを探る
・ 川越女子高校川越市内におけるアライグマの分布調査
・ 越ヶ谷高校埼玉県東部へのアライグマの広がり
・ 坂戸西高校アライグマに対する意識調査
・ 飯能高校痕跡調査からみる飯能市内におけるアライグマの生息状況
・ 所沢西高校所沢西高校周辺でのアライグマ爪痕調査と聞き込み調査
・ 所沢高校アライグマの生息状況と駆除~所沢周辺調査より
・ 海城中・高等学校アライグマ対策に関する提言

〇平成28年度:「アライグマから外来生物問題を考える」

<譜演>「小笠原諸島・奄美大島など島嶼生態系の外来生物防除と保全について」財自然環境研究センター研究員橋本琢磨氏
く研究テーマ>
・ 海城中学高等学校チームアライグマの活動報告~外来生物間題に対する意識の変化~
・ 川越女子高等学校川越市周辺の河川における外来生物カワリヌマエビ属の侵入
・ 熊谷西高等学校アライグマが夜行性なのは人が原因か?Part2
  熊谷西高校周辺のヌマガエルの生態調査
・ 越谷北高等学校越谷北高校周辺のナガミヒナゲシとアツミヒナゲシ
  越谷北高校周辺の水生生物を探る
  埼玉周辺の外来昆虫
・ 越ヶ谷高等学校
  埼玉県東部へのアライグマの広がり
*平成28年度は平成27年度に比ベアライグマ以外の外来生物に関する研究を行う学校が増加
した。生徒の興味関心の広がりの結果である。

3-4 生徒が企画・運営する討論会

日本獣医生命科学大学で、参加校によるディベートを行い、参加者と意見交換を行うことで、外来西部問題に対する考え方の多様性を知り、自分の考え方をより深めることができた。
実社会との関わりの中で答えのない間題を協働して解決する力を育成し、チームとして外来生物問題を広く一般の人々に啓蒙することができた。

〇平成27年度:「外来生物問題から考える自然の末来~自然との共生に向けた討論会~」
〇平成28年度:「遺伝子組換えによる駆除を考える」テーマ「琵琶湖におけるブルーギルの不妊化個体による駆除の是非」話題提供埼玉県立川の博物館学芸員藤田宏之氏

3-5 学会発表

日本生態学会全国大会平成26年度は鹿児島、平成27年度は仙台国際センター、平成28年度は東京の早稲田大学早稲田キャンパスで行われた。チームに加え、各校の研究テーマをポスタ一発表した。多くの研究者からアドバイスや質問を受け、研究内容を深めることができた。研究者がたくさん集まる会場で、研究者と同じ時間を過ごし、講演を聞く体験は、生徒自身が研究の当事
者としての自覚を持ち、やる気を出す効果がある。

3-6 その他の活動

生態学会で知り合った先生や生徒の情報から、外来生物問題に関する企両で発表する機会が増えた。自分たちの活動を外部に発表することで、チームとして外来生物問姪を広く一般の人々に啓蒙する目的を達成するため、平成28年度からはより多くの外部発表の機会を作るように努めた。
①NPO法人いろいろ生きものネット埼玉主催「市民による生物調査の新たな可能性~観察記録を市民科学へ~」チーム代表活動報告
②第13回高校生環境サミット(都立つばさ総合高校)でのポスター発表
③ミュージアムパーク茨城県立自然博物館で企両展「外から来た敷物たち」内での各校活動発表
小学校就学前の児童から大人まで多くの年齢層に対するプレゼンテーションは、生徒達にとって良い経験となった。
④哺乳類学会(筑波大学)ポスター発表
⑤環境教育学会(学習院大学)ポスター発表

4.まとめ

チームアライグマの爪痕調査データは、環境省生物多様性センターのデータとして活用されることになった。図10のポスターは、チームのある1校が地域の啓蒙活動の1つとして作成し、近隣に配布したアライグマのポスターである。チームアライグマのように、複数の学校の多くの中・高校生が課題研究やいろいろな活動に参加することで、学び合いによる科学的思考力、判断力、表現力を育て、社会との関わりの中で答えのない問題を協働して解決する力をも育成できた。この活動をきっかけに、生徒一人一人が、様々な方面に活動を広げていき、他校の生徒と話し合い、どんどん成長していく姿が見られた。