2016年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「観察、実験の結果を分析して解釈する力を育てる学習活動の工夫」-シンキングツールとしてのICTの効果的な活用-

実施担当者

本田 栄敏

所属:南相馬市立石神中学校 教諭

概要

1 はじめに
 「思考カ・判断カ・表現力」の育成には、収集した情報を再構築する力が欠かせない。観察・実験の結果から何が言えるのかを考察し、まとめる。更に、予想や仮説と照合させながら考察したり、他の結果における共通性や傾向性に着目したりしながら結論をまとめさせる場面が必要である。そのために情報を共有する場を導入し、シンキングツールとしてのICTを効果的にどのように使うかについて研究をした。
 また、本校は南相馬市原町区の西部に位置する学校である。津波被害こそなかったが、福島第一原発事故後、学区外から通学を行っている生徒もいる。震災後、日本全国から様々な援助等を受け、教育機器等の充実を図ってきた。iPadもその一つで、寄付や無償の貸し出しで15台保有している。それを利用して、実験や観察の様子を動画撮影し、結果の考察時にTVに有線接続し、共有化を函ってきた。しかし、有線であることやTVの画而が小さく有用な活用ができていなかった。そこで、「無線対応プレゼンテーション用機器」やユニット型の「電子黒板」を利用することで、現在保有しているiPadや顕微鏡カメラ等を有効利用し、映像の投影や、資料の投影がスムーズに行え、そのため考察の時間や意見交換の時間がより長く設定できると思われる。生徒が主体的にICT機器を積極的に活用することで、自らの考えを豊かに表現することができるようになると思われ、言語活動の充実が図れるであろう。更には、日常生活との関わりを意識させたり、活用を図ったりするための言語活動にも有効な手段のひとつであると思われる。


2 ICT機器の効果的な活用
2-1 情報の共有化
 理科において、まず大切なことは、実験や観察を行って、情報を収集することである。実験や観察は必ず、目的の結果が出るとは限らず、失敗してしまったり、技術的に上手く観察できなかったりするときがある。その際に、他の班や教師が観察したものを、全体で共有することで、情報の確認、共有化を行うことができる。そうすれば、実際に視覚で捉えることができ、下位の生徒の理解も深まると考えられる。
 そのために活用したのは、まず、顕微鏡カメラである。顕微鏡の観察は技能が必要であるので、下位の生徒にとっては難しい部分もある。高倍率での観察などは尚更である。更には、プレパラートを各自作成して観察する場合は、その難易度も高まる。そのために、観察できた生徒のものを顕微鏡カメラを使って、大型テレビに映し出すことで、情報の共有化を行った。また、それを見ることで、どのようなものを観察すれば良いのかと言うことも分かりやすくなり、目的物をみつけやすくなった。活用した単元としては、1学年では「身近な生物を観察しよう」で中学生の初めの単元において、顕微鏡の正しい使い方の習得する場場面で活用し、ミジンコやケイ藻などの水中生物の観察、情報の共有を行った。また、「根、茎、葉のつくりとはたらき」の単元では、葉の表皮細胞の観察にも活用した。2学年では、「生物と細胞」の単元で、植物や動物の細胞のつくりの観察に活用した。3学年では、「生物の成長と生殖」の単元で、細胞分裂の観察において、なかなかみつけられない生徒への提示として活用した。
 また、本校はデジタル教科書があるので、それと電子黒板システムを連動させることにより、デジタル教科書内のコンテンツを瞬時に提示、加工することができ、大がかりであったり、危険であったりするものでも、生徒への提示が可能になり、情報を多く伝えることが出来るようになった。このことは、理科室だけではなく、普通教室においても電子黒板による提示が可能になったので、理科室に行かなくても、普通教室での授業でのちょっとした提示にも大いに活用できるようになり、教室に実験器具を持ち込むことなく、瞬時に簡単に提示できるようになった。
 更には、iPadを使っだ情報の共有も有効であった。その際に、「無線対応プレゼンテーション用機器」を活用することにより、接続の時間や手間を省くことができ、簡易に行うことができた。活用した単元は、上記の顕微鏡での生物の観察である。iPadで撮影したものをTVに送信して、情報の共有化を図った。また、3学年の「放射線」の単元において、霧箱で放射線の飛跡の観察を行ったが、それを動両でリアルタイムでTVに映し出し、説明を加えながら観察を行うことができた。更には、実験の方法などの説明の際に、通常は全体を前に集めて説明を行うが、全員が見にくかったり、細かくて手元が見えにくかったりする場合あるので、手元をiPadで撮影しながら、TVに映し出すことで、生徒は自分の場所にいたまま、大画面で全休に見やすく説明することができ、時間が短縮でき、生徒も集中させて話を聞かせることができた。また、1学年の「水溶液の性質」の単元では、物質が溶解するときに起こるシュリーレン現象をiPadで撮影し、観察した。このようにiPadが無線でTVと連動していることにより、持ち運び自由で簡易にリアルタイムで「青報を共有することができ、とても分かりやすくなった。

2-2 分析して解釈するカ
 実験の結果を分析して解釈し、そこから規則性や法則を見つけていくことが理科である。そのためにICT機器を活用して活動を行った。まずは、「比較する」ことで分析して解釈する力を高める方法を考えた。具体的には、2学年の「生物と細胞」の単元で、植物の細胞と動物の細胞を観察したものをiPadなどで撮影し、それを並べてTVで表示することにより、その違いを見つけやすくなった。また、1学年では「葉のつくり」の単元で双子菜類と単子葉類のつくりも並べて表示し、比較することで違いが見つけやすくなった。また、「音」の単元において、デジタル教科書に内蔵されているオシロスコープの機能を活用し、音の大小・高低と波形の違いなどの比較し、考察した。また、定量的な実験における得られたデータを分析するためにも活用した。iPadなどを通して、各班のテーブルから実験データをエクセルソフトに入力させた。その作業を瞬時に行うことができるので、その後の考察の時間に十分な時間を取ることができた。実験の操作ミスからのデータの大きなズレが見つけやすくなり、平均値も自動的に出るように設定することができる。更には、それをグラフ上にプロット化することができ、法則や規則性を見つけるのにとても有効であった。活用した単元としては、3学年の「仕事」の単元の「仕事の原理」を見つける実験において活用した。「放射線」の単元では、放射線の距離による減衰、遮蔽による効果などをデータで確認する際に活用した。2学年では、「化学変化」の単元の「定比例の法則」を見つける際に有効であった。このように、ICT機器を活用することにより、比較が簡単に行えたり、データの入力、分析が短時間で行えたり、その処理も瞬時に行うことができ、分析して解釈する力を高めるために有効であった。


3 まとめ
 「観察、実験の結果を分析して解釈する力を育てる学習活動の工夫」において、ICTを活用することは、大きな効果が得られることが分かった。
 まずは、実験・観察のデータを共有化する際においてICTはとても効果的であることが分かった。顕微鏡カメラによる提示は、多くの資料を共有することに役立った。電子黒板を使ったデジタル教科書の活用は、様々なコンテンツの活用や普通教室での授業の幅の拡大につながった。
iPadと無線プレゼンテーション用機器を連動させた活動では、リアルタイムでの情報の共有にとても有効であった。このようなことから、ICT機器の活用は、データの共有に大変有効であると分かった。
 また、ICT機器を活用することにより、写真などを並べて表示することができ、比較が簡単に行うことができた。iPadと無線対応プレゼンテーション用機器を連動させることにより、データの入力、分析が短時間で行え、その処理も簡易に行うことができ、分析して解釈する力を高めるために有効であり、考える時間を多く生み出すことができ、生徒の思考を深めるための活動に時間を費やすことができるようになった。
 このようなことにより、「観察、実験の結果を分析して解釈する力を育てる学習活動の工夫」において、ICTを活用することは、大きな効果が得られることが分かった。