2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「第二・第三の藤岡市助(ふじおか いちすけ)を生み出す科学教育の推進」~「なぜ」をキーワードに、持続可能な未来社会を担う次代の科学者を育てよう ~

実施担当者

松根 健治

所属:山口県立岩国高等学校 校長

概要

1.はじめに
 明治期に「日本のエジソン」と評された藤岡市助は安政4年(1857年)、岩国に生まれ、のちに藩校、養老館(岩国高校の前身である旧制岩国中学校は、この藩校の流れを汲む学校である)で学び、後に日本で最初に白熱灯を作り、電車を走らせ、東京電気株式会社を創業した。岩国市には、こうした藤岡市助の偉業と彼の口癖であった「僕は世間の人に役立つことをしたい」という進取・奉仕・科学の精神を讃えた「立志の碑」が建立されている。すなわち、岩国市には、「科学を愛し、科学技術で社会の進歩に貢献する」という市助スピリッツともいうべき伝統が息づいており、小中学校においても理科教育が盛んである。
 こうした岩国の地に在り、地域の進学校を標榜する岩国高校では、これまでも進学実績の向上とともに、理数教育に努めてきたが、今後とも山口県東部の岩国・柳井地区で唯一、理数科を設置する高校として、理科や数学教育の充実を図ることにより、持続可能な社会を支える次代の科学者、第二・第三の藤岡市助を育成したいと考え、目下、理数教育の深化・充実に取り組んでいるところである。


2.実施内容「藤岡市助プログラム」
(1)岩国高校の理数教育
こうした岩国高校理数教育の背景のもと今年度、中谷医工計測技術振興財団の経済的支援を受け、関係各機関との連携を図りながら、一層推進したのが「第二・第三の藤岡市助を生み出す科学教育の推進」(以下、「藤岡市助プログラム」である。)
①理数科の取組み
 本校では、これまでも、普通科に併置した理数科を中心に学校全体として、理数教育の推進に努めており、理数科目を充実させた教育課程の編成だけでなく様々な取組みを展開している。理数科では1年次の夏休みに、本校同様に理数科を併置している山口高校・徳山高校の理数科1年次生と理数系の科目を中心に勉強合宿する「三校合同合宿セミナー」を実施する。さらに2年次では、生徒自身の科学的な興味関心、問題意識にもとづいて自由に設定した研究主題について、3~6名で編成するグループの研究を実施している。(山口県の「YSS(やまぐちサイエンスサポート)事業」として実施)
②普通科の取組み
 普通科においても、理数系の学習に興味関心のある1年次生や理系コースの2年次生が理数科生徒とともに、岩国市の科学学習センターや近隣の大学の協力を受けながら、夏休み等を活用してフィールド・ワークを伴う科学研究(平成26年度:「陸から海へ、瀬戸内の豊かさを育む微小生物の研究」)を行った。(科学技術振興機構の「SPP(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)事業」として実施)
③「山口県理数教育研究大会」
 こうした理数科を中心とした研究活動の成果について、例えば、「理数科課題研究」であれば、校内の1・2年次のすべての理数科生徒たちが参加する発表会で披露している。
 また、平成24年度から山口県教育委員会が開催する「山口県理数教育研究大会」において、県内6校の理数科生をはじめ、科学に興味・関心のある高校生を集めて、研究成果を発表している。
本年度の「山口県理数教育研究大会」は、平成27年3月15日(日)に山口市秋穂の山口県セミナーパークで開催され、本校からは2グループがステージ発表に、それとは別の2グループがポスター発表に参加した。
 山口大学の教授らによる審査の結果、本校の化学グループのステージ発表「水の硬度の研究」が2位の優秀賞を受賞し、8月6日に長崎で開催される「平成27年度中四国九州課題研究発表大会」においてポスター発表することになった。

(2)理数教育の成果の深化・発信
 「藤岡市助プログラム」では、これまでの本校理数教育の取組みをさらに深化させるとともに、さらに取組みの成果を広く外部にも情報発信していくべく、ジュニア科学教室「岩国科学の祭典」(岩国市主催)の場を活用し、本校の生徒が自分たちの研究成果を発表した。小中学生に対して、タブレットを用いてわかりやすく科学の面白さを伝えるなど、本校生徒のプレゼンテーション能力の向上にも大いに効果があった。


3.まとめ
 「藤岡市助プログラム」の具体的な取組みを進めるに当たっては、岩国市はじめ、岩国市教育委員会や山口県教育委員会、県内外の大学、公的な研究機関(岩国ミクロ生物館等)や近隣の民間研究機関などと連携しながら実施につとめた。
 例えば、岩国市の浄水場を見学して、家庭や工場からの排水の浄化に関する微生物の働きについての考察を行ったり、広島大学の教授や岩国市近隣の民間研究機関の研究員を講師に招いて、瀬戸内の豊かさを支える「微小生物」の多様性と自然界での役割を学んだりした。
 さらには、岩国ミクロ生物館の指導を受け、由宇海岸での海水を採集し、瀬戸内海に生息する微生物について学んだ。こうした活動の中から、科学に対する興味・関心を一層深め、将来、理系の大学・学部に進学する生徒が、一層増え、第二・第三の藤岡市助ともなるべき人材が育っていくと信じている。