2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「特別支援学校(聴覚・視覚)及び病院院内学級等における特別出前科学教室」(初年度報告)

実施担当者

吉田 守

所属:(一財)大阪科学技術センター 普及事業部 参事

概要

1.はじめに
 当大阪科学技術センターでは、平成19年度より特別支援学校に出向き、聴覚や視覚に障害のある子供たちを対象に、出前授業を積極的に行ってきた。また設備面や時間的な制約等から科学教育の基本である理科実験等が充分に実施されていることが少なく、その手助けの一助として実施している。さらに、平成24年度からは院内学級へも出向き、病院での長期加療中の児童・生徒を対象に、理科や科学に興味関心を持ってもらい、少しでも楽しい機会を提供できるよう活動を行っている。
 本特別出前科学教室では、「見て、触って、自分で試し、そして考える」ことを主眼に、あまり学校では体験できないような、科学の楽しさ・不思議さを体験できる科学実験を、各学校・施設と協力して実施している。さらに科学工作も併せて行い、生徒自ら考え、試し、工作を行いながら、科学の原理を身近に体験できるよう指導し、科学により親しみが持てる科学教室を実施している。
 長年の地道な活動が実を結び、近年は恒例行事として各学校・施設に受け入れて頂き、毎年実施を楽しみにしていただいている。一方で、他の学校や施設からも実施の要望があり、数年前から少しでも要望に応えるべく、運営形態の工夫や見直しを行いながら、実施内容や工作を考案しているが、予算的に全てを受け入れることが出来ない状況であった。
 そこで、今回本科学教育振興助成をいただき、以下の学校等において、特別出前科学教室を実施した。


2.活動内容及び結果
 具体的には、以下の学校・施設と協力し特別出前科学教室を実施した。

(1)大阪市立大学医学部附属病院
〇実施日:平成27年6月5日(金)
〇活動内容:「フシギがいっぱい!サイエンスマジックショー」(科学実験と体験実験)
・テコの原理を使ったスプーン曲げ実験
・落ちない水(コップの中の水が逆さまにしても落ちない実演)
・ビー玉製造機(光の屈折の応用)
・手回し発電機の仕組み(電気の発生と伝わり方)
・瞬間湯沸かし実験(アルミニウムで発熱)
・分光シートを使った光の観察
〇参加者数:28名

(2)大阪府立生野聴覚支援学校
〇実施日:平成27年8月26日(水)
〇活動内容:「電池のしくみ・電気のふしぎ」
(科学実験と工作実習)
・水溶液の伝導性を調べる(水と食塩水に電極を入れ、通電しどちらのLEDが明るいか観察、)
・水溶液の電気分解(手回し発電機を炭素棒の電極につなぎ、硫酸ナトリウムの水溶液に電流を流し電極付近の変化を観察)
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・ボルタの電池実験(電池の極調べ)
・フルフルライト(振り振り発電機)工作
〇参加者数:27名

(3)大阪市立総合医療センター
〇実施日:平成27年9月29日(火)
〇活動内容:「フシギがいっぱい!サイエンスマジックと科学実験」
<サイエンスマジック>
・マジックインキによる記憶力の科学マジック(生徒の集中力・記憶力のチェック)
・テコの原理を使ったスプーン曲げ実験
・化学反応を利用したお茶の色変化の実験
・トランプ数字当てマジック
・手回し発電機の仕組み(電気の発生と伝わり方)
<科学実験:空気と電気・音のふしぎ>
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・羽根を持った「種」を飛ばそう!
(翼果に模した種を紙で作り落ち方を観察)
・炎の熱で音を鳴らすレイケ管の実験
・浮力の実験(ボウリングの球は水に浮くか)
〇参加者数:29名

(4)大阪市立聴覚特別支援学校
〇実施日:平成27年10月1日(木)
〇活動内容:「電池のしくみ・電気のふしぎ」
<科学実験と工作実習>
・水溶液の伝導性を調べる(水と食塩水に電極を入れ、通電しどちらのLEDが明るいか観察)
・水溶液の電気分解(手回し発電機を炭素棒の電極につなぎ、硫酸ナトリウムの水溶液に電流を流し電極付近の変化を観察)
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・ボルタの電池実験(電池の極調べ)
・フルフルライト(振り振り発電機)工作
〇参加者数:57名

(5)京都府立聾学校
〇実施日:平成27年12月3日(木)
〇活動内容:「電池のしくみ・電気のふしぎ」
<科学実験と工作実習>
・水溶液の伝導性を調べる(水と食塩水に電極を入れ、通電しどちらのLEDが明るいか観察)
・水溶液の電気分解(手回し発電機を炭素棒の電極につなぎ、硫酸ナトリウムの水溶液に電流を流し電極付近の変化を観察)
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・ボルタの電池実験(電池の極調べ)
・フルフルライト(振り振り発電機)工作
〇参加者数:37名

(6)大阪市立大学医学部附属病院
〇実施日:平成28年2月5日(金)
〇活動内容:「フシギがいっぱい!おもしろ科学実験」
<サイエンスマジック>
・マジックインキによる記憶力の科学マジック(生徒の集中力・記憶力のチェック)
・テコの原理を使ったスプーン曲げ実験
・化学反応を利用したお茶の色変化の実験
・体験実験(掌の湿度でトレーシングペーパーで作られたスプーンが曲がるのを観察)
<科学実験:空気と風の実験>
・羽根を持った「種」を飛ばそう!
(翼果に模した種を紙で作り落ち方を観察)
・熱の実験(ゴム風船の伸縮により温度変化を体感)
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・炎の熱で音を鳴らすレイケ管の実験
・浮力の実験(ボウリングの球は水に浮くか)
〇参加者数:26名

(7)大阪府立堺聴覚支援学校
〇実施日:平成28年2月19日(金)
〇活動内容:「電池のしくみ・電気のふしぎ」
<科学実験と工作実習>
・水溶液の伝導性を調べる(水と食塩水に電極を入れ、通電しどちらのLEDが明るいか観察)
・水溶液の電気分解(手回し発電機を炭素棒の電極につなぎ、硫酸ナトリウムの水溶液に電流を流し電極付近の変化を観察)
・通電実験(人の体に電気は流れるかを体験)
・ボルタの電池実験(電池の極調べ)
・フルフルライト(振り振り発電機)工作
〇参加者数:37名


3.まとめ
 聴覚に障害のある子どもたちの通う支援学校や、長期加療中の子どもたちが学ぶ院内学級では、ハンディキャップがあることから時間的にもまた設備・機器的な面からも制約もあり、特に理科教育に関しては実験等に充分な時間がかけられず、将来理科嫌いや理科離れを招きかねない傾向が見受けられるのが現状である。
 このような状況の中、本特別出前科学教室では学校や病院施設などに出向き、子どもたちが座学だけではなく、実際に参加体験しながら学べる出前科学教室を行い、科学の楽しさ・不思議さに接する機会を設け、授業の枠を超えた想像力を高める経験の場を提供し、本助成金による教材・機器の充実もあり、実施校や施設から高い評価をいただいた。
 さらに、授業内容と関連した科学工作を行うことで、子どもたちが科学の原理をより身近に感じ、また体験することで理解を促し、更に勉学意欲を高め、ひいては知識の定着を図る効果も期待できる。
 また、これら活動場所のすそ野を広げることで、一般社会で適応できる社会適応能力を高めた子どもたちを増やすことにつながれば幸いである。