2014年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「弘前南高校サイエンスセミナー」(南陵サイエンスセミナーⅡ)~弘前大学理工学部/農学生命科学部での実験・実習~

実施担当者

高木 和彦

所属:青森県立弘前南高等学校 教諭

概要

1.活動の背景とねらい
 弘前大学は本校から徒歩15分の所に位置し、本県唯一の国立総合大学である。毎年、本校入学生徒の7割程度が弘前大学への進学を希望している。また本校は平成25年度より「科学教育推進計画」を立ち上げ実施している。昨年度は1年次生の希望者を対象に県内の教育施設や企業の協力を得て、通常の教育課程に加えた様々な科学教育事業を行い、効果を得ることができた。今年度2年次生については理系が4クラス、文系が2クラスと例年よりも理系の志望者が増えており、また地域でも本校の科学教育に対する取り組みが周知されてきている。その中で今年度、弘前大学との連携の一つとして大学での実験・実習を実施した。このことで科学に対する興味や学ぶ動機付けが一層高まり、また理工系進路への具体的な目標がより明確になることが期待できる。


2.活動の概要
 対象を1年次生の希望者とし、各テーマでの校内事前学習を経て、大学での実験・実習に臨んだ。実習後はレポートの作成、大学の先生による添削までを行い、理工系を志す生徒にとって研究の一連の流れやノウハウを体験・習得する機会となった。

<日程>平成26年10月4日(土)
9:00 弘前大学集合
9:10 開講式
9:30~12:00 実験・実習①(2.5時間)
12:00~13:00 昼食(持参)
13:00~17:00 実験・実習②(4時間)
17:00 閉講式

<テーマと指導教員、受講生徒数>
(A)3直線は1点に会する
理工学部数理科学科
教授 丹原 大介
受講生徒:3名
内容:平面幾何には3本の直線が1点で交わるという定理が数多くあり、このなかでデザルグの定理とパスカルの定理はヒルベルトの『幾何学基礎論』において幾何と代数を結びつける働きをすることについて学んだ。

(B)ボルダー振子およびフーコー振子の実験
理工学部物理科学科
准教授 御領 潤
受講生徒:3名
内容:ボルダーの振子を用いて弘前地区での重力加速度を精密に測定し、さらに、その値を利用して、弘前大学に設置されているフーコー振子の周期測定から、振り子の長さを決定した。また、フーコーの振子を用いて地球の自転を観測し、弘前大学での自転回転角を測定した。

(C)PCR法及び電気泳動法によるDNA分析
理工学部物質創成化学科
准教授 萩原 正規
受講生徒:5名
内容:髪の毛あるいは爪からゲノムを抽出し特定領域をPCR法により増幅した後、アガロース電気泳動法で分離、分析を行った。

(D)樹木の年輪の成長と環境要因の関係
理工学部地球環境学科
教授 葛西 真寿
受講生徒:3名
内容:年輪は樹木の成長の休止と再開が繰り返されることによって形づくられることから、その年の気温,雨量,日射量(晴れた日の総数)などの環境要因と年輪の成長の変化パターンの相関を調べた。

(E)新しい太陽電池に向けた光学実験
理工学部電子情報工学科
教授 小林 康之
受講生徒:4名
内容:太陽電池を構成するシリコンやガラスや様々な材料に光を当てて、その材料がどの程度光を透過するのか、どの程度反射するのか等の光学実験を行い、次世代太陽電池の材料の光物理を学んだ。

(F)レーザー光の基本に関する光学実験
理工学部知能機械工学科
准教授 花田 修賢
受講生徒:4名
内容:「光」は大きく分けて2種類あり、一つは日常、目にする照明などの「ランプ」、もう一つは「レーザー」である。実験では、これらランプとレーザーの違いについて学び、ランプ及びレーザーを使った微細な世界を体験した。

(G)食文化に関わる遺伝子資源の評価
農学生命科学部生物資源学科
教授 石川 隆二
受講生徒:4名
内容:日本の食文化形成に関与したものとして、沖縄の在来果樹・シークワーサー・香り米について、その食文化の背景を学んだ後、遺伝子マーカーを利用した遺伝子解析、香り米の遺伝子分離ならびに形態からみた種識別についての学習を行った。

(H)細胞性粘菌の発生と分化の観察
農学生命科学部 生物学科
教授 福澤 雅志
受講生徒:4名
内容:細胞性粘菌のパターン形成を利用して、細胞分化を理解する基礎的な観察実習を行い、またプラスミドDNAを精製し分析することで遺伝子工学の基礎を学んだ。


3.アンケート結果および成果物
事業実施後、以下の項目についてアンケートを行った。

質問項目
1 学年を教えて下さい(5:高2)
2 性別(1:男 2:女)
3 研究者の授業を受けるのは(1:1回目、2:2~3回、3:4 回以上)
4 おもしろかった
5 内容が理解できた
6 自分で調べて見ようと思った
7 科学技術、理科に興味関心を持った
8 問題を発見できた
9 情報を集めることができた
10 情報を利用し考えることができた
11 人と積極的に話し合うことができた
12 人と協力して実験を進めた
13 レポート作成、発表ができた
14 次回も参加したいと思う
15 理科数学を勉強することは将来必要となりそう
16 科学技術に関連する仕事に就きたいと思う
17 科学は身の回りのことを理解するのに役立つ

回答
1 そう思う
2どちらかというとそう思う
3どちらかというとそう思わない
4そう思わない

 ほとんどの項目で回答1、2の肯定的回答が80%以上であり、中でも「科学への興味の高まり」や「理数学習の必要性」については回答1が特に高い値を示している。しかしながら「科学技術関連の仕事への就職」については項目の中で唯一回答3、4の否定的回答が40%を占める結果となった。
 このことから就職も含めた理工系進路についての学習機会が必要であると考える。具体的方策として、今回のようなセミナーであれば開講式の中に理工系の就職に関する講演会を組み入れることで、生徒にとってより充実感のある事業にすることができる。

<成果物>
 セミナー後の一週間で各自が作成したレポートを講師の先生へ提出し、添削をいただいたものを生徒が受け取った。
 大学の先生からの直接の添削やメッセージは生徒にとって貴重なものとなったはずである。


4.まとめ
 今回のサイエンスセミナーには全1年次生240名中30名の希望者が参加し、普段の授業ではできない専門的かつ高度な実験・実習を経験することができた。1日という短期集中型ではあったが事前学習やレポート作成など学習効果はとても大きいものだったことが生徒の活動の様子やアンケートからもうかがえる。大学の研究・学習内容や設備の一端に触れ、また大学の先生やT
Aとして参加した大学院生との人的交流も含め、生徒にとって今後の学習活動の大きな動機付けとなったはずである。このことが一過性にならないよう授業の中でも継続的に最先端の科学の話題や研究成果などを情報提供していくなど教員の側でも工夫改善していくことが重要である。
 一方で内容理解の点においては、事前学習や大学の先生の指導により一定の結果が示されているが、興味関心の上昇に比較するとアンケート結果からも一段低い数値となっている。このことは例えば生物分野でPCRやDNA電気泳動を行ったグループでは、教科書で履修後の2年次にこの実験実習を行うことでより高い効果、内容理解が期待できる。本セミナーの対象を2年次生にまで拡大もしくは2年次生のみに移行するなど、今後の検討課題である。
 これまでも弘前大学とは講演会や出前講座などの連携事業は行われているが、今回のセミナーを通じて弘前大学理工学部および農学生命科学部と大学での実験実習という形で実施できたことで新たな連携モデルを構築することができた。