2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「体験的・視覚的にわかる理科教材の工夫」

実施担当者

神原 優一

所属:倉敷市立北中学校 教諭

概要

1.はじめに
 教科書にそって授業をしていく中で,実際に体験した方が分かりやすいが,実際に行うと時間が膨大にかかってしまってできないような実験がある。その分野については、ビデオ教材を見て終わったり,教科書を読んで終わりにしたりすることがある。
 そのような分野で,モデルを作って模擬実験を行ったり,スケールの小さくすることでたくさんの実験を行ったりすることで,生徒自身が体験的・視覚的に理解することができると考え,テーマを設定した。


2.ボーリングの模擬調査(地学分野)
 地学分野では,ボーリングのモデル実験を行った。教科書の発展の実験で,寒天を使って地層を作り,寒天の地層をストローで抜くという,模擬のボーリングを行うというものがあったので,実際に昨年度やってみたのだが,寒天の層にして固めるのに時間がかかることや,生徒が操作をしたときに地層が上手く抜けないといったような問題点が数多く出てきた。
 そこで,地層をフラワーフォームでモデル化し,太めのストローで模擬のボーリング調査を行うという教材を開発した。模擬のボーリング調査で,柱状図を作り,地層の広がりを予測し,ホワイトボードに書かせ全体に発表させた。
 最後には,自分の予想と,地層が一致しているかを実際に見て確かめた。寒天で地層モデルを作るよりも,手間がかからず,太いストローでわかりやすいと生徒にも好評だった。


3.マイクロスケール実験を用いた酸・アルカリの実験(化学分野)
 3年生の化学の実験に,水溶液とBTB溶液との反応,マグネシウムリボンとの反応,pH試験紙との反応など,色々な反応を実験で見ながら,酸とアルカリの共通の性質を調べていく実験がある。この実験をレポートにまとめさせていくと,どれがどの溶液だったか,色はどうだったのか,反応がどうだったのか,などたくさんの実験結果が出てくる。今までは,ふり返るときに,最初に行っていた部分の試験管を片付けていたりしてレポートの結果が上手くかけない生徒もいた。今回は,マイクロスケール実験を用いることで,実験の結果がぱっと見て分かり,前との実験との比較も容易にできた。また,実験操作が簡単であり,理科の得意な特定の生徒ばかりが行うのではなく,生徒全員が協力して実験を行うこともできた。
 廃液も少なくてよく,どの生徒もレポートにきれいにまとめることができた。
また,化学式の作り方については,原子モデルをホワイトボードに貼っていくことで視覚的に分かりやすく説明した。


4.ハイスピードカメラを用いた等速直線運動の実験(物理分野)
 等速直線運動,等加速度直線運動の実験では,記録タイマーを使い,打点を取り,瞬間の速さや,平均の速さを求める実験がある。この実験は,計算問題ということもあり,打点の意味を良く理解をせずに,とりあえず計算の方法と式だけを覚える生徒も多い分野になりがちである。今回は,ハイスピードカメラを用いることにより,実際に写真を撮ってコマ送りをしてみた。0,1秒ごとにどれだけ進むのかが,より視覚的,実感的に生徒たちに理解することができ,より身近な現象として実験や計算問題を進めることができた。
 また,ホワイトボードに滑車を貼った使った実験も行い,秒数と重さ,動かした距離で仕事と仕事量を実際に計算する問題も行った。


5.お互いに問題を出し合い,お互いに教え合う授業(生物分野)
 実験ばかりを多く行っていると,どうしても,筆記テストの記述問題のところでつまずいてしまう生徒が多い。そこで,実験を行うだけでなく,プリントやワークを使って学習をし,更に授業中に検定問題と称して,実験技能検定や,教科書単語検定,プリント穴埋め検定などを行わせた。班で練習させた後,簡単な問題を自信のある生徒から言いに来させ,100点だった生徒は,まだ合格していない生徒のチェック役を行うというものである。
 これを行うことで,知識・理解についての学力保証もできた。また,学力がつくだけでなく,友だち同士の関係も良くなり,クラスの雰囲気自体も検定を行うことで良くなっていったように感じられた。


6.視覚的に分かりやすい教材を用いた授業
 今回の実践では,上記の4つのものを中心に実践を行ったが,その他にも,全天周カメラを用いての天気の授業や,サーモグラフィーを用いて温度の変化を調べる授業なども行った。天気の授業では,雲量の概念が教科書の絵では分かりにくい。実際に全天周のカメラで,空全体を撮って見せた。
 このカメラを使うことで,雲全体に占める雲の割合がどれくらいだったのか。ということが良く分かった。と生徒から意見が出た。また,サーモグラフィーを使って,時間における温度の変化も調べていった。
 色の変化の違いに温度が区別することができたので,生徒は見ただけで,温度の変化を感じることができた。3年生の酸とアルカリの授業の中和の場面では,クエン酸と重層を混ぜると温度が下がっていくということも,このサーモグラフィーを使って行った。
 また,1年生の体積と質量,密度を求めさせる実験では,ホームセンターなどで購入したキッチンスケールを使い,各班で質量を求めさせた。教科書などでは,文章だけで,この物体の体積は○○?,質量は□gである。密度は?というような問題だが,目の前にある実物の密度を測ることで,体感した重さと計算で出てきた密度がつながった。
密度を求めることが,できたらホワイトボードに記入をし,黒板に貼り付け,班ごとに発表をさせていった。

3年生のエネルギーの分野では,エネルギーが移り変わることを手回し発電機とモーターにただつなげるだけでなく,モーターを載せた車に手回し発電機を乗せ,実際に動かすことで,手で回した運動エネルギーが電気エネルギーになり,また,運動エネルギーになることを,より実感させることができた。他にも,LED電球と白熱電球の負荷の違いや,手回し発電で,水の電気分解も行わせた。
また,発展として,小学校で取り扱ったコンデンサーにも触れ,電気自動車の仕組みや,ハイブリッド自動車,また,電気分解装置から取り出した水素を用いて,燃料電池を動かし,燃料電池車と,スマートグリッド社会,太陽光発電と電気自動車の蓄電システムなどについても説明を行った。


7.まとめ
 今回の実践では,体感的・視覚的に分かりやすい実験器具を作成したり,購入したりして授業を進めていった。文章で読むだけでなく,実際に自分で触ってみたり,カメラを通して見てみたりすることで,今まで気付かなかったことに気づくことのできる生徒が増えていった。来年度では,現在作っているナイロンの繊維を編んだおもちゃを使った筋肉のモデルなど,今年行わなかった分野での教材開発,授業実践を行っていきたい。