2015年[ 科学教育振興助成 ] 成果報告

「マイクロスケール実験」成果報告書

実施担当者

長沼 宏子

所属:陸前高田市立第一中学校 教諭

概要

1.はじめに
 本校は岩手県沿岸の最も南に位置する陸前高田市にある、全校生徒264人の中学校です。校舎は市内の高台にあり、以前は眼下に気仙川、高田松原、そしてその向こうに太平洋を望むことができました。しかし、現在は5年前の東日本大震災により、学校を取り巻く自然環境は大きくかわりました。


2.生徒の実態
 本校学区の大半が、津波のため、現在復興工事中です。震災前のように、海、川、山などを身近に感じられる状況ではなくなっています。ただ、高台にある本校校舎は幸い被災を免れたために、理科室、実験器具などは以前通りに使える状態です。自然観察の機会が減った分、さまざまな実験をできるだけやらせてあげたいと考えています。しかし、実験器具の数は多くはなく、ほとんどの実験は
4~6人の班単位で行っています。
 本校の生徒たちは、明るく前向きで、学習に対しても意欲的な生徒が多くいます。ただ、ほとんどの生徒が、家族や親しかった人を亡くしたり、家を失ったりと何らかの被災をしており、指導の際には配慮が必要です。
 実験は好きな生徒が多く、ほとんどの生徒が、意欲的に取り組んでいます。ただ、班単位の実験では、遠慮がちな生徒や実験が不得意な生徒が、見ているだけになってしまう場合も時々見られます。実際、自分で実験操作した生徒とそうでない生徒では、実験技能はもちろん、知識の定着度にも差が出てきてしまいます。


3.教材選定の理由
 上記のような生徒の実態から、実験は少人数で、できれば個人でやらせたいと考えていました。けれども、そのためには実験器具が多数必要なこと、薬品を多量に使うことが問題点でした。そんな時、地区の理科教員が集まって研修を行ったとき、マイクロスケール実験の器具を紹介されました。マイクロスケール実験は、小さな実験器具を多数用意するため、個人実験が可能なうえ、使う薬品も少量で済みます。また、廃液も少ないので、環境への影響も抑えられます。


4.支援をお願いした理由
 マイクロスケール実験器具のセットは人数分そろえなければ意味がないのですが、本校の1クラスの人数が30人以上で、全員分そろえるとかなりの金額になります。そんな時、中谷財団さんの支援について知り、お願いしたいと考えました。


5.活用例
【例1・電解質と非電解質】
 電解質と非電解質を見分ける実験をしました。食塩、食塩水、砂糖、砂糖水、蒸留水、水道水を試料として、それぞれに電流が流れるかどうか調べました。1人に1つ実験器具を使わせることができたので、各自のやり方で実験を進めることができました。
【例2・塩化銅水溶液の電気分解】
 塩化銅水溶液に電圧をかけて分解する実験をしました。これも1人に1つの実験器具で実験をしたので、気体が発生する様子や銅が電極について出てくる様子を全員が確かめることができました。自分で操作したため、陽極と陰極の変化の違いも確認できました。また、小さな実験装置なので、廃液もたいへん少なく済みました。
【例3・教員の研修】
 地区の理科教育研究会で、マイクロスケール実験の紹介と中谷財団さんの支援の紹介をしました。教員同士で実験方法やアイディアの交流できました。


6.成果
 今回、マイクロスケールの実験を行い、生徒一人ひとりが最初から最後のまとめまで、大変意欲的に学習に取り組んでいました。自分で導いた実験結果なので内容もよく理解できていました。また、一人でやる実験ですが、それぞれがお互いに実験方法を確かめ合ったり、結果を見比べたりと、学び合う姿勢も班実験よりも活発に見られました。


7.まとめ
 マイクロスケールの実験は、生徒の意欲を高める面でも、学習内容を理解させる面でも有効でした。また、使用する薬品が少なく、廃液も少ないので、環境への影響が抑えられると考えられます。